MAR 26, 2019

INTERVIEW

価値のパラダイムシフトを 近大から起こせるか

INTRODUCTION

ACT PROJECTでは2019年4月より、新たにブロックチェーンラボが立ち上がります。近畿大学では、過去にもブロックチェーンにまつわるイベントを開催するほか、大学内での実証実験を奨励してきました。近畿大学がブロックチェーンに取り組む意義や、ブロックチェーンの可能性について、ラボオーナーに就任予定の近畿大学理工学部情報学科電子商取引研究室 准教授 森山真光さん、そしてブロックチェーンイベントを主催する「近もく会」の学生にお伺いしました。

インターネット上の価値交換を可能に

金融取引を真の非中央集権へ

森山:近畿大学で10年ほど、企業間の電子商取引を研究しています。企業と共同研究で貿易関係の書類を自動作成するツールを開発するなど、主に国際取引を円滑に行う方法を研究してきました。ブロックチェーンは2014年に、「低コストで海外送金できる仕組みがある」と、とある企業から教えてもらいました。インターネットの発達によってあらゆるものが電子化しましたが、お金の送金は自動化が難しいのが現状です。ブロックチェーンは社会を変える可能性をもつ、おもしろい技術だと思います。国際電子商取引の研究の中で、特に注力しているのがブロックチェーン技術を用いた仮想通貨の管理についてです。

森山 真光 理工学部 准教授

森山:仮想通で支払いをする場合、秘密鍵と呼ばれる暗号技術で作られた鍵(キー)で送金情報に電子署名をします。今は取引所が秘密鍵を保有して運用されていますが、取引所が悪意のある第三者に攻撃されるとユーザーの資産が消えてしまう可能性があるのです。

ブロックチェーンは、銀行のような中央集権的な仕組みではなくても支払いを可能にする分散システム。にも関わらず、現状の秘密鍵の管理は中央集権になってしまっています。そこで私たちは、個人がスマートフォンで秘密鍵を安全に保管できる仕組みを研究しています。

大学が実証実験の場

森山:近畿大学は、積極的に実証実験を奨励してくれています。例えば2018年にはアプリを開発し、ACTの活動で貯めた仮想通貨をカフェで使えるキャンペーンを実施しました。秘密鍵をスマートフォンから分離したウォレット(アプリ・ソフト)も合わせて開発し、もしスマホを紛失しても秘密鍵が安全な状態をつくりました。

またオープンキャンパスでは「近大謎解きキャンパス」と題し、キャンパス内を歩いてミッションをクリアすると、近大内で使える仮想通貨をもらえるキャンペーンを実施。こうした実証実験ができるのは、実学を重視する近大ならではの魅力です。

森山:ブロックチェーンの登場で、インターネット上で情報の交換・共有・検索できるものの価値交換を、銀行やクレジットカード会社を経由せずに可能になりました。医療やサプライチェーンで導入が進むほか、海外の大学は学位記や履修登録をブロックチェーンで入れているところもある。低コストで記録改ざんの恐れのないブロックチェーンが広がれば、社会のプラットフォームは大きく変わるでしょう。

学生個人でも、新たに価値を見出したことで経済圏をつくることができるところが、ブロックチェーンのおもしろさ。

森山 真光

理工学部 准教授

森山:資本のある大企業ではなく学生個人でも、新たに価値を見出したことで経済圏をつくることができるところが、ブロックチェーンのおもしろさ。技術を知っておいて損はありません。法律的にもプライバシー的にもさまざまな問題はありますが、ブロックチェーンはこれからの社会を代表するシステムになるだろうと期待しています。ラボが開講したら、ブロックチェーンを使ったサービス開発ワークショップなども実施したいです。

ブロックチェーンが生み出す新たな経済圏

価値の定まっていなものに価値をつける

ブロックチェーンのイベントにも積極的に取り組む近畿大学。2019年3月6日には、「近もく会」主催の「時代の先駆者になるための ブロックチェーン基礎講座」を開催しました。

一人目のゲストは日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員・エバンジェリスト 西脇 資哲氏。「ブロックチェーン、未来を創る新しいテクノロジーの可能性」をテーマに、ご講演いただきました。

西脇:ブロックチェーン=仮想通貨のイメージが強いですが、コインをつくるものではなく私たちの未来をつくるテクノロジーです。ブロックチェーンの特徴は、データを分散管理できること。改ざんされない安全性と、正確な取引記録、高い信頼性と可用性が保障されています。

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員・エバンジェリスト 西脇 資哲 氏

西脇:金融商品や記録管理、食品トレーサビリティ、カルテ、投薬履歴、履歴書などブロックチェーンには、さまざまな使用方法があります。また、まだ価値の定まっていないものに活用されることで、新しい経済活動が加速するのではないかと考えています。SNSのいいねの数、1日の歩数、ファンの声などを仮想通貨に変えることで、今までにない経済圏が生まれるのではないでしょうか。

まだ価値の定まっていないものに活用されることで、新しい経済活動が加速するのではないか

西脇 資哲

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員・エバンジェリスト

2人目のゲストは、ブロックチェーントークンを使った健康促進アプリFiFiC開発者の中川祥平氏。本イベント主催者の「近もく会」アドバイザーでもあります。

FiFiCは2019年1月にリリース。歩いた歩数に応じてブロックチェーンで構築されたコインを獲得でき、加盟店で商品やサービスと交換できるアプリです。

来場者が2,000人を超える「宮古島冬祭り」(2019年2月開催)では、全島巻き込んで実証実験を実施。FiFiCを広めることで、歩く人が増え、生活習慣病の予防や医療費の削減に繋がるのではと考えながら、ユーザー数拡大をめざしています。

FiFiC開発者 中川 祥平 氏

中川:アプリを開発したのは、自らの手でFiFiCという小さな経済圏をつくってみたかったから。気軽に使えるさまざまな開発システムがあるので、学生のみなさんも興味あるテーマでサービスをつくってみてはいかがでしょうか。

アプリを開発したのは、自らの手でFiFiCという小さな経済圏をつくってみたかったから。

中川 祥平

FiFiC開発者

エンジニアの思想に惚れた

最後に、イベント主催者である「近もく会」メンバーにお話を聞きました。プログラミングに興味を持つ学生が毎週木曜日に集まり、勉強やサービス開発など自主活動を応援しあう「近もく会」。メンバーは、ブロックチェーンにどのような可能性を感じているのでしょうか。

左から、理工学部3回生 生筒 井凌さん、経営学部3回生 大村 真央さん、近もく会代表・経営学部4回生 中原 雄太さん、国際学部3回生 岡 崇さん

中原:近もく会は、学生を中心に外部の社会人にメンターになってもらい活動しています。今回のイベントも、メンターのつながりからゲストをお呼びすることができました。プログラミングを学ぶ学生の多くは、ブロックチェーンにも関心を持っています。

大村:近もく会はNEM財団とも関わりがあるので、自分たちで実際に仮想通貨をつくって取引する勉強をすることもあります。

ブロックチェーンに対するエンジニアの思想を知り、なんて夢がある技術だろうと惚れ込んでしまいました。

岡 崇

国際学部3回生

岡:僕は大阪にある仮想通貨取次所の会社でインターンをしていて、ブロックチェーン領域に特化したシェアオフィスの運営を任されています。初めは多くの日本人のように、仮想通貨を投機目線で見ていました。しかしブロックチェーンに対するエンジニアの思想を知り、なんて夢がある技術だろうと惚れ込んでしまいました。

エンジニアの卵が描くブロックチェーンの未来

学生編集チームも取材に参加

筒井:AIやIoTとブロックチェーンの技術は、本質的に異なります。AIやIoTは、今ある暮らしをより良くする技術ですが、ブロックチェーンは今ある社会基盤を壊してつくりあげる技術。ブロックチェーンの世界が来るかどうかは断言できませんが、できることを一歩ずつがんばっていきたいです。

中原:講演で西脇さんがおっしゃったように、今まで価値がついていなかった部分に価値がつくのは、おもしろいなと思います。例えば現在、在学生とOB、OGの関係性に価値をつけるアプリを開発中です。ほかにも、ゲームで獲得したコインは今まで現実世界では役に立ちませんでしたが現実でも使えるようになるのもおもしろいんじゃないかな。

人口知能と同じように、ブロックチェーンも何度か波を超える中で僕たちの生活に浸透していくのではないでしょうか。

筒井 凌

理工学部3回生

岡:GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Appleの総称)は、ブロックチェーンを使った投稿システムを発行しようと動いていたり、アメリカ最大のスーパーチェーンがクレジット決済を廃止し、ライトニングネットワークというブロックチェーンの技術を導入しようと動いたりしています。決済手段からブロックチェーンが広がる可能性はあると思います。

筒井:人口知能は衰退期と成長期を何度も繰り返して、現在のように広まってきました。同じようにブロックチェーンも、何度か波を超える中で僕たちの生活に浸透していくのではないでしょうか。

岡:運営するシェアオフィスの入退室管理をブロックチェーンで実装したり、ブロックチェーン領域のハッカソンに出で、アイデアをどんどんサービス化しようとしたりしています。僕がインターン先で得た知識や技術もメンバーにシェアしていきたいので、来期ラボができたら絶対に関わりたいです。

近畿大学では、今までにもブロックチェーンに関するイベントやハッカソンなどを研究室や民間企業と共同で開催してきました。2019年4月にラボが立ち上がることで、学生を巻き込んだ産学連携の動きは広がり、学校内での実証実験もよりキャンパスライフに即したものになっていきそうです。

ブロックチェーンは、インターネットに次ぐ革命を起こすと言われるほど社会を変える可能性を秘めている一方で、解決すべき課題もたくさんあるのが現状です。しかし未成熟な市場だからこそチャレンジしがいがあるというのもまた事実。ルールが決まっていないフィールドで思う存分たたかえる機会は、社会の変わり目に生きる私たちの特権なのではないでしょうか。

未来をつくるエンジニアの卵たちは、ブロックチェーンを使ってどう社会を変えていくのか、目が離せません。

EDITING TEAM

  • Writer

    北川 由依

  • Photographer

    北村 渉

  • Writer

    東 真保未

    薬学部5回生

  • Writer

    池田 由季

    国際学部2回生

  • Writer

    大垣 孝

    経済学部3回生

  • Writer

    川添 陸

    経営学部2回生

  • Writer

    長島 優輝

    経営学部2回生

  • Writer

    濱崎 洋嗣

    総合文化研究科修士1回生

  • Writer

    吉村 佳夏

    国際学部2回生