INTRODUCTION
本講座では、編集工学研究所より橋本英人さんをツアーコンダクターとし、まず宇治の象徴的翼:平等院鳳凰堂を散策し、宇治の起源に触れてきました。抹茶を実際に石臼で挽いたり、ほうじ茶を焙煎する体験を経て、朝日焼をロクロの班、手びねりの班に分かれ、それぞれの「型」に沿って体感的に編集してきました。
果たして参加学生たちは、「型」にハマることができたのでしょうか?
そもそもリアル編集講座とは?
なぜ「リアル」なのか?
編集講座とは、松岡正剛さんが所長をつとめる編集工学研究所の生み出した「編集工学」について学ぶ講座です。この技法を一般の人々が学ぶ窓口として、2000年よりスタートしたオンライン講座があります。これまで3万人超える受講者を生み出し、様々な編集の「型」を学べることができます。
リアル講座というのは、そういった編集稽古を、研究員の方が直接レクチャーしてくださり、体験的に編集的思考を身につけるということです。今回、編集工学研究所の橋本英人研究員の直接指導のもと、事前学習が行われました。それでは、実際に、今回実施された編集技法の中から、「地と図」というのをご紹介しましょう。
情報には地(ground)の情報と、図(figure)の情報がある。
「地」は情報を見る視点や背景のことで、
「図」はその情報の背景のもとに立ち上がっている情報の意味を指す。
これらが組み合わさって一つの情報を形成している。
それでは、実際にワークしてみましょう!
Q「りんご」からあなたは何をイメージしますか?
どうでしょうか?
→iPhoneをイメージした方や、ニュートンをイメージ方も多かったのでは?
→つまり何を「地」(ニュートンなら重力の話)にするかで「図」が大きく変わるということです。今回の陶芸体験ではこれが大きく役に立つのです!
なぜ大学で「編集」なのか?
現在、近畿大学ではアカデミックシアターをはじめ、起業を学べる場、他学部と研究成果を掛け合わせる場として授業以外に様々な学びが開かれています。デザイン思考など新しい思考法も取り入れられ、能動的に登校し、課題意識を持って自ら学ぶ学生が増えました。これらにおいて重要なのは「新しいものを生む出す」ことです。しかし、普通に考えてしまうと行き詰ってしまうことも多いのではないでしょうか?
そこで登場するのが編集力です。ここでいう「編集」とは、色々な情報を組み合わせて、「今までにない見方で」新しいものを生み出すための「型」を磨いていくのです。まさに先ほど紹介した「地」と「図」がそうです。「地」、つまり物事をみる見方や背景が無意識に固定化してしまっているのを、意図的に動かしていくための思考の「型」だと言えますね。
編集講座のその先へ
これまでの編集講座では、オンラインまたは、リアルで受講していても言葉を介した頭だけで編集していくことが主でした。しかし今回の目的はそれだけではありません。
それでは本講座の主催者:橋本研究員のお言葉を借りましょう。
様々な日本の現場や産地や歴史に触れて
「実社会で新たな価値をつくる」
ことを体験し、そのためのメソッドを学ぶ。
具体的に何をするか気になってきましたね?ね?
それでは今回の体験をご紹介していきます!
「未完成を味わう」宇治へ
私たちの日常や社会は日夜大きく変化し、テクノロジーの発達でより完璧なものが再現・発明できるようになりました。今まで以上に「隙間」の許されない世界になっていることを実感する人は多いかもしれません。または、息苦しいと感じている人もいるのではないでしょうか?
もしあなたがそう感じているのであれば、この宇治にはそこから抜け出すヒントがあるかもしれません。今回、体験した陶芸や茶道の型の元として「わび」「さび」「すさび」というものがあります。
事足りない、完全を求めない美しさの「わび」
静かで奥ゆかしさに美しさを見出す「さび」
この「わび・さび」が次々と変容していくことの総称「すさび」
この考え方は何を隠そう今回体験する陶芸の基礎となっているのです!特にこの朝日焼は、「さび」の中でも、静かでそこはかとない色味や風味を「綺麗さび」というコンセプトで400年前に構想され形にされてきたものなのです。
橋本:これらはまさに編集的で、その土地ごとの「土」という情報を扱い、手やロクロを使って型通りに、もしくは型を外れながら、伝統の形が継承されつつ現代に合わせた器ができています。日本的な「土」や「釉薬」という「情報」を扱う匠の技を深く知ってほしいです。
ザ・シンメトリー:平等院鳳凰堂
1時間ほどバスに揺られ、まるで遠足前のような高揚感を隠しきれない私たちを最初に迎えたのは、黄金の鳥が両脇を固める鳳凰堂です!左右対称のバランスの良さや、どっしりと構えるような形が僕らを捉えて離しませんでした。とりわけ色合いに驚きを隠せません。実際に見た鳳凰堂は、金色がより映えるようにうまく赤色や緑色が使われているようにも感じました。
そのあとすぐに、鳳凰堂の残像が抜けないまま、平等院ミュージアムに潜入。こちらでは現代技術で再現された極楽浄土の世界が広がっており梵鐘、鳳凰、雲中供養菩薩像などの国宝が展示されていました。館内温度もちょうどよく、特に何10種類もいる菩薩像たちが個性的で、大きさが可愛らしかったです。気づけば私自身も浄土のいるのかな?錯覚するようなしないようなそんな空間でした(ちゃんとおみあげコーナーで目が覚めました)。
本講座の戦場:「福寿園 宇治茶工房」
平等院を散策したのち、昼食に宇治の茶そばを堪能した私たちは、本日のメインイベントである「福寿園 宇治茶工房」に到着しました。それぞれ抹茶体験から行うチーム、陶芸体験から行うチームと別れいざスタートです!
私は抹茶からスタートだったので、抹茶体験よりご紹介します。
お茶体験
ダイナミクスが命!
そもそも恥ずかしながら私は抹茶が今まで「抹茶」からできていると思っていたのですが、大間違いでした(笑)。同じ人もいるかもしれません。抹茶は「碾茶(てんちゃ)」というお茶の葉からできていたのです。この碾茶を、石臼を使って挽いて粉状になったものが「抹茶」なのです。
まずは、碾茶が入った石臼を15分間回し続けます。この時、1回転3秒ペースで行うといい感じの味の抹茶になるそうです。しかし、想像以上に石臼が重たく、15分間耐久はなかなかの持久力が必要で、これから抹茶を飲むのに少しヘトヘトしてしまいました。
お湯を入れ、お馴染みのお茶点てです!手首のスナップを利かせて素早く縦に動かすのがコツだそうです。また、混ぜ方一つで抹茶の味は大きく変わります。
人によっては抹茶か?と疑いたくなるほど、薄い人もいれば、一口で抹茶だとわかるほど、濃い完成度の人もいました。
目と鼻で味わう
抹茶体験と一緒にほうじ茶作りもできました。これまでほうじ茶はかなり飲んできましたが、作り方を意識したことなどありませんでした。まずは煎茶や番茶などを強い火で炒るのです。そしてほうじ茶の香りがしてきたら、炒るのをやめて、すぐにお皿に移して冷やしました。
色が緑から茶色に変わると完成です。私は匂い自体は炒り初めてまだ緑のままのとき一番濃厚なお茶の匂いで良かったです。もし体験されるときは色と一緒に変わっていく臭いにもぜひ着目してください!
苦味という歪み
碾茶を挽くためにかける時間やタイミング一つや、抹茶の点て方一つで味が大きく変わる抹茶や、炙り方のさじ加減、匂い、色から判断するほうじ茶。ここにも力加減や、粒の大きさ、時間、色など様々な情報が盛り込まれており、それらの調整がまさしく型に基づいて葉を「編集」していたのです。
陶芸体験
荒ぶるトルネード!ロクロ体験
それでは本日のメインディッシュである陶芸体験についてお話しします!今回は、ロクロで作るグループと手びねりで作るグループに分かれて制作しました!まずは苦戦した人が多かったロクロの方からのぞいてみましょう。
まず、ロクロの作り方ですが、ペダルを踏むと回転台が回転し、手で土の形を変化させていきます(なんかすごいですね土)。
実際にロクロをやってみると、さじ加減が難しい、バランス力がいるなどの声が学生の間で多発しました!(笑)
私は、1個目のコップがビール瓶のように、そして、2個目は底に穴を開けるという前代未聞のハプニングで、職人さんを焦らせてしまいました(笑)。
ここで、我らがゼロテン編集室から参戦した学生メンバーの声を聞いてみましょう。
ブッとんだ副編集長:カワゾエ(以下カワゾエ)
カワゾエ:職人さんが製作しているのを見ると簡単そうに見えますが、やってみると驚きで、どの工程にもつまずきました。中々思いどおりの形にはならず、土が途中で分離し、やり直しだということも何度もありました。しかし、何度失敗しても面白く、飽きることも、萎えることもありません。すぐにまた作り直し試行錯誤を繰り返します。誰しもが好きなるのではないでしょうか?僕は久しぶりにモノづくりというのを体感しました。ただずっとろくろに集中し時間を忘れていました。小学生の図工で粘土を使いガンダムを作っていた自分を思い出します。
土と遊ぶことはとても不思議で、何歳になっても変わらなくて、親指の力の入れ方や中指のあて方、手のひらで優しく覆う時全ての動作に、体と自然が触れ合っているのだと実感します。仕上がった作品も多種多様で、人によって形も大きさも全然異なり、そこも面白いとこでした。土表現の広さは広大でした。手を洗った後のもう終わりかという心情も昔となんら変わらないような気がしました。
仕上げを止めるな!手びねり体験
人によって、全然違いますね(笑)。同じ茶碗でもデザインや飾りの効果が強いのですね。しかし一方で、手びねりも苦戦したところがありました(ロクロほどではない)。最後の底に粘土を付け、その粘土のガタガタの部分をしっかり水平に整える作業が、力を入れすぎると切りすぎてしまうし、弱すぎるとあまり切れない繊細な動きでありここの部分は失敗は許されない、というか、失敗すると茶碗が立ちません(笑)。また、ロクロを回して、粘土を切断する作業では、少しのミスが大きな欠陥になる可能性があるので、難しかったです。
それではこちらもゼロテン編集室参戦メンバーの生の声をお届けしましょう!
メンヘライター:タニガワ(以下:タニガワ)
タニガワ:先生が手びねりのお手本を見せてくれた。僕はそれを見てできると確信した。「なんだ、簡単やん」と。しかし、物事はそう単純ではなかった。僕の指先は全く先生のような動きをしてくれなかった。何度も挑戦したいが、1度きりの勝負なので後戻りはできない。大胆に形を切る者をいれば、慎重に形を整える者もいる。人それぞれ、やり方はバラバラである。工程は同じであるが、人の性格、気持ち、集中力が手元に反映される。緊張感が周りから伝わってくる。そこで、誰かが「よっし、うまくできた」や「切りすぎた」などの言葉を発し、場の雰囲気が和む。
そうして、時間を見るといつの間にか1時間ほど経ち、疲れがどっしりと体に押し寄せてくる。「もう少しで完成する。」「後少しだ。」と終わりに近づいていく。遂に僕の作品が完成した。同時に気持ちは高ぶり、久しく感じていなかった達成感が僕の心に降ってくる。見た目はまだまだだけど、自分が納得する作品が作れて心の底から「良かった」と感じた。自分で何かを作る面白さ、楽しさを改めて感じることができ、ものづくりの大切さを学んだ。
加減の期限を鮮やかに。
抹茶・陶芸体験それぞれを通して、「型」を学び、そこから自分たちの創造を広げてきました。時に型をはみ出してしまい、形が崩れたり、少しの力の加減が完成度に大きく影響を与えることを実感しました。また、どこに「地」を置き、「図」を動かすかという視点に立つことで、同じような一つの土の塊にたくさんの人格を宿すことができるということを理解できたのは大きな収穫です!
例えば、お皿という「地」で考えたとき、土を浅く掘って、横に大きく広げるように手を固定して作るようになるのと同じようにどんな陶器にするか、どんな模様にするか、底は深くするかなど、作り手の意思が陶芸を編集し、気持ちを宿しているのです。
ちなみに作品のばらつきが大きかったのは、ロクロの方です。手びねりは器自体に型があって、全体的に安定した器をそれぞれ作れていましたが、ロクロは加減次第で、皿が芸術作品になってしまったり、コップがビールジョッキになってしまうなど、作り手の感覚が直接出ているようにも思えました。一方で、手びねりは装飾や整理の作業次第で粗が目立ったり、見栄えが変わるので、注意したいところです!
もう一つ重要なのが、陶芸はどちらも焼くと焼くと元の型より15%くらい縮むそうで、想定している大きさより大き目に作らないといけないみたいです。逆に大きくやりすぎても大惨事になるので、“程良さ”を心がけましょう。
お届けしましたリアル編集講座〜朝日焼編〜
普段、脳内で完結してきた「編集」を体で表現するという試みはなかなかありません。
次はどのような課外講座で編集していくのでしょうか。
どうぞお楽しみに。
皆さんの応募待っています。
EDITING TEAM
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Writer&編集長
濱崎洋嗣
総合文化研究科心理学専攻
-
photographer&副編集長
川添陸
経営学部
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Photographer&メンヘライター
谷川孝寛
国際学部