研究者インタビュー

異なる素材を組み合わせ、世界に「横糸」を通す

西籔 和明

  • #サステナビリティ
  • #素材

丈夫で軽い素材の開発は、航空機や車などさまざまな分野で需要が高まっています。カーボン繊維で織った布を樹脂で固めた新素材「CFRP」の研究をおこなっている、西籔和明先生に研究分野についてお聞きしてきました。
(聞き手:ヒラヤマヤスコ/撮影:小椋雄太)

研究者紹介

お話を聞いた人

西籔 和明

Kazuaki Nishiyabu

近畿大学理工学部機械工学科 教授

自動車や航空機の軽量化の切り札として注目の高いCFRPの量産と再利用を目指す東大阪市内企業と「e-コンポジット研究会」設立。また、大阪東部地域連携「金型プロジェクト」で地域活性化を目指している。

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研究の概要

個性の違うそれぞれの素材を一体にして、活用しやすい「複合材料」を生み出す研究です

先生の研究を教えてください。

複合材料の製造や装置の開発、製造した複合材料の活用法などについて研究をしています。複合材料とは、紙などのポリマー、金属、セラミックなど、種類の異なる素材をうまく組み合わせてひとつにしたもの。たとえばガラスは硬いけれど特定の方向からの力には弱いし、プラスチックは柔らかくて伸びやすいぶん劣化が速いとか、素材同士それぞれ違う個性や弱点を持っていますよね。素材を組み合わせることで互いの弱点を解消する……それが複合材料です。

たとえばどんな複合材料があるんでしょうか。

いまもっとも研究している素材のなかのひとつが「CFRP」です。CFRPとは、「Carbon Fiber Reinforced Plastics」の頭文字を取ったもので、カーボン繊維で織った布に樹脂を染み込ませるようなかたちで硬化させてできる素材のこと。

カーボン繊維とプラスチックを合わせた「CFRP」は鉄のように丈夫で紙のように軽い素材です

CFRPはどんな素材なんでしょうか?

一言でいうなら「鉄のように丈夫で紙のように軽い」素材です。まず、カーボン繊維自体はプラスチックを焼いて炭化させた糸状の素材。それを綿や絹などと同じようにより合わせて太い糸をつくり、縦糸と横糸で織って布状の素材とします。これだけでもある程度は丈夫な素材ですが使用用途によってはまだ弱いんですね。さらに、カーボン繊維の布を樹脂で固めて硬化させ、CFRPはできあがります。そしてそれを金型に入れて熱で変形させることで、さまざまなパーツとして完成します。

軽くて強いという特性をいかして、飛行機やロケットなどの航空機、電気自動車などに大量に使われています。宇宙を飛ぶロケットがプラスチックでできているなんて多くの人が思いませんよね。

てっきりすべて金属なのだとばかり思っていました!

いままで航空機はアルミニウムが主体で使われてきましたが、CFRPは金属よりも軽い。そして丈夫です。メリットでいえばボディが軽くなることで燃費がよくなるということです。全てが鉄でできた自動車の場合だと、ガソリン1Lで走れる距離は7〜10kmほど。現在のハイブリッドカーは1Lあたり25〜30kmほど走るのが当たり前です。より少ない燃料で遠くに行こうと思うと、車体の重さを軽くすればいいんですよね。エンジン性能なども飛躍的に向上していますが、燃費に負担をかけない素材も日々向上しています。

これまでの道のり

完璧な材料はないからこそ、研究や挑戦の積み重ねが他のことにも生きてくるんです

CFRPはいうなればプラスチックですよね。「脱プラスチック」の動きが昨今は顕著ですがいかがですか?

確かに、この頃は「脱プラスチック」の流れが加速していますね。もちろんそれは把握しています。CFRPも、使用する樹脂を再加熱して形を変えることができるものに変更するなど、リサイクルを前提とした製造に変わってきています。僕個人としては、プラスチックが全て悪だとは思いません。車体の素材を鉄からCFRPに変えた方が燃費がいいので環境にやさしいということもあるんです。プラスチックでなくてもいいものはプラスチック以外のものに変わっていけばいいし、プラスチックのほうがよいものは再利用を考えたうえで活用するのがいいかなと。

ただ、樹脂は紫外線などに弱いイメージがあるのですが、そのあたりはどうなのでしょう。

そうなんです。金属に比べると樹脂の方が紫外線による劣化が早い。では航空機などはどうしているかというと、CFRPを表面に金属塗装をほどこしたり、内部に銅のメッシュを貼って強化したりしています。そもそも、CFRPは欠点だらけの素材です。CFRPだけではなく、鉄もアルミもそうです。

どういうことですか?

これは重要なのですが、そもそも完璧な材料なんてものはこの世にないんです。丈夫だけど錆びやすいとか、軽いけど紫外線に弱いとか、優れている点もあれば劣っている点もある。そうした特徴をいかにとらえて発展させていくかが大切なんですよね。私がCFRPを研究しているのも、まだまだ発展性のあるこの素材の、欠点をいかにカバーして機能を向上させていくのか挑戦しているから。私個人としては正直、鉄が好きです(笑)!

世界に「横糸」を通すような研究者でありたい

先生はなぜ複合材料に興味を持たれたんでしょう?

私は最先端の材料も好きですし、砂や紙など昔からある材料にも興味がありました。ひとつの狭い学会に留まるのがいやで、いろんなところを渡り歩いてきた結果、いろんな素材を扱う現在に落ち着いた感じですね。おかげで中小企業や町工場の方々から「あの先生はなんでも答えてくれる」と言われます(笑)。

学者という立場なのによろず屋さんなんですね。

そうなんです。学者ってひとつの専門素材を研究して、実績を縦に縦に積み上げていくタイプが多いんですよね。私も縦に経験を積んでいた時代もあったんですが、一般的な学者が縦糸なら、私は現場でがんがん動いて、異なる素材や業界を繋げるような、横糸を通す研究者になりたいと思っています。

これからの展望

私の家も町工場で、生まれも育ちも現場主義。「ものづくり」を通して町工場の元気を取り戻したいです

「横糸を通す」先生のスタンスは、なにがきっかけで生まれたんでしょう?

私の実家は奈良の繊維機械工場なんです。生まれも育ちも町工場。ものづくりの集団のなかで生活していたので、現場主義であるスタンスはそこからきているのかもしれません。とはいえ私は企業で働いたことはないんですが……。

町工場育ちの先生として、先生は今後どんな取り組みをしていきたいですか?

現場で手を動かすものづくりからは外れたくないので、ものづくりをやっている人が四六時中出入りができて、自由に開発できる拠点をつくりたいですね。昔は、車が好きな若者は車好きの友達の家に集ってみんなで改造やらをしていたわけです。べつにコンテストがあるとかではなく、ただ手を動かすのが好きだからやっていた……。現在の「ものづくり」って実業家が宇宙開発に乗り出すなど、お金ありきなエリートの事業になってきているような気がします。ものづくりの現場を、手を動かすことが好きな人たちに取り戻させてあげたいなと。

つくるものはなんでもいいんですか?

なんでもいいと思いますよ。スケボーでもいいと思うし、机でもいいと思う。ノルマと規制ばかりで、つくりたい人たちが集まれる場もほとんどない今だからこそ、そういった「たまり場」のようなものをつくって、ひいては町工場を元気にしていけたらいいなと思います。

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