研究者インタビュー
「分からない」が増えていっても、
雷の正体を追いかけ続ける
森本 健志
誰もがよく知っているようで、実はメカニズムが解明されていない「雷」。その謎を解き明かすべく、各地の研究者が知恵を絞っています。森本健志先生もそのひとり。雷被害の多いマレーシアで、雷の発生を予想し、防ぐにはどうすればいいのか。災害に立ち向かう研究について聞きました。
(聞き手:小野 民 / 撮影:小椋 雄太)
お話を聞いた人
森本 健志
Takeshi Morimoto
近畿大学 理工学部 電気電子通信工学科 教授
共同研究を行うマレーシアでは、雷の計測や小型ロケットで雷放電を誘導する「ロケット誘雷」などの技術を用いて、雷被害を軽減する研究中。
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研究の概要
雷の正体を知るために計測器から手作りし、雷のによる災害対策につなげていく研究です
先生の研究テーマを教えてください。
ひと言でいえば、「雷って何だろう」を追い続けています。電気の現象だとは明らかになっているけれど、何をきっかけに始まるのか、雲の中にどれぐらい電気が溜まっているかなどは、全然分かっていないんです。
私の研究のアプローチ方法は「ちゃんと測ろう」というもの。誰かと同じ装置を使って雷を観測していても同じことしか分からないので、自作の観測装置を作って、それを実際に使って観測する研究を続けています。
どんな装置を作っているのでしょうか。
雲の中のどこで雷が始まり、どう進んでいるかを明らかにするための装置を作ってきました。雲の中での出来事だから普通の写真では分からない。だから、電波で100万分の1秒の単位で雲の中の「電波写真」を撮るような感じ。画像をつなげれば、超スローモーションで動きがわかります。
他にも先生が開発しているものはあるんですか?
計測機器だけでなく、雷を誘導するロケットも作っています。高くて速く動いているものに雷は落ちやすい。その性質を利用し、雷が落ちそうなタイミングを見計らって、小さなロケットを打ち上げるんです。そこに雷が落ちてくれれば、より詳細なデータを取得したり、地上の被害を軽減する方法を考案したりできる。ただ、打ち上げは私が雷雨のなかでやっているので、なかなかクレイジーな研究ともいえますね(笑)。
現在取り組んでいる、日本とマレーシアの共同雷防災プロジェクトについて教えてください。
私を含めたさまざまな日本の研究者が開発してきた装置や知見を、雷が多いマレーシアに持って行くプロジェクトです。マレーシアでは、年間200日は雷が発生していて、被害も多いんですよ。だから私たちの研究や技術を、防災に役に立てていくことが最終目標です。
マレーシアでのメインパートナーは2つの大学なんですが、これまでも雷の研究を熱心にしてきている方々なので心強い。プロジェクトが始まってから、私の研究室の学生が現地に行くこともありますし、マレーシアからは近大の大学院に入学した人もいて、いい刺激を与え合っていると思います。
これまでの道のり
サバイバル能力がいる研究は自分向き。気づけば20年、トライ&エラーを続けています。
雷について子どもの頃から興味があった……というような研究の入り口なのでしょうか。
そうだったらかっこいいんですけど(笑)。実は、研究室を決めるときに、指導教員にナンパされたんですよ。その研究室では野外での研究を多くしていて、私がサバイバル能力に長けているように見えたのでしょう。
もちろん雷研究でも、屋内での研究を主としている人もいます。でも私は「現場で実物を観測するんだ」と志して、ずっとやってきました。入り口はなんとなくでしたが、20年ずっと同じ研究に夢中になっているので、声をかけてもらった瞬間が人生を変えたと思いますね。
長年ひとつの研究を続けられている理由は何でしょうか。
やればやるほど分からなくなっていくんですよね。 分からないことが分かってくるというのかな……。不思議なことがどんどん増えていっていまだに卒業できない感じです(笑)。
過去には、地上からじゃなくて、上から雷を眺めてみようとしたこともあります。そのときは、人工衛星に乗せる観測装置をがんばって作っていました。新しい装置を作って測るとより詳しく雷が見えるんですけど、そうすると「こんなことが起こってたの?」と、余計悩みます。
だから、やっぱり未だに「雷って何なんだろう」に戻るんです。もちろん分かってきたこともあるけれど、まだまだこれからです。
これからの展望
雷予報を社会実装して、「雷に備えて外出を控えよう」が当たり前になってくれたら
日本 × マレーシア共同雷防災プロジェクトは、2022年から始まり3年目。どのような進捗ですか?
共同研究プロジェクトは、今はまだ第一段階。装置を展開して世界最高水準のデータを集めようというところです。第二段階は、 得られた観測データをもとに、雲の中に電気が溜まっている量を推定する。その予測を雷の予報に生かしていくのが第三段階。そこまでいけば、マレーシアの人たちの暮らしにいよいよ役立ってくると思います。
「雷って何だろう」の好奇心が、社会貢献につながっていくって素晴らしいです。
とてもありがたいことだと思っています。研究の大きな動機は、自分の知的好奇心を満たしたいから。とはいえ、世の中の役に立ちたい気持ちもずっと持ってきました。
これまで「その研究って誰の役に立つの?」と言われてきましたが、実際に役立つところまできて、社会実装が見えてきている。それは、今回のプロジェクトに関わっている機関が多様で、多くの研究者や学生を巻き込んでいるからこそです。
JICA(国際協力機構)やJST(科学技術振興機構)の支援もあり、日本とマレーシアの民間企業と協力する大きな座組みの中にいることで、机上の空論ではなく、本当に社会の役にたつにはどうすればいいかを真剣に考える機会になったと思います。
詳細に雷の観測ができるようになった先には、どんな未来が待っていますか?
そうですね。ちゃんと測るのも大事なんだけど、みんなにどう見せるかがすごく重要で、そこもがんばらなくちゃいけない。
みなさん、今後の雨が降るかどうかを知りたいときに雨雲レーダーを当たり前に見るでしょう。専門知識がなくても子どもでも直感的に見て役立てられる。しかも自分の行動に反映してるのは、実はすごいことです。
雷予報はまだ難しい。でも、詳細な計測を組み合わせてリアルタイムで監視をすることで、ゴロゴロとなり出す前の前兆をつかみたい。そうやって、雷に備えられるようにしていきたいです。いつか、自分の作った装置のデータをもとにした、雷予報のアプリなんかができて、「雷が危ないから、今出かけるのはやめよう」 と思ってくれるようになったら最高ですね。
誘雷ロケットももっと活用されていくといいですね。
そうですね。絶対に守らないといけないような場所があったら、周りにロケットを打ち上げて全部先に落としてしまう、そういうことができるはずです。
現在の落雷対策は、落ちても壊れないようにする受け身のものがほとんどです。攻めの落雷対策として、自分の研究が使われる未来を思い描いています。
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