研究者インタビュー

日英の比較から、

言語の根底にあるマインドを探る

藤田 直也

  • #言語学
  • #留学

日本語と英語を比較・分析する日英対照言語学を専門とする藤田直也先生。その原点には、高校卒業後すぐにアメリカに渡って感じた言語の壁やコンプレックスがありました。藤田先生の研究活動や、自身の留学経験を生かして携わった国際学部の創設、産学協同による留学制度の構築について、お話を伺いました。

(聞き手:藤原 朋 / 撮影:小椋 雄太)

お話を聞いた人

藤田 直也

Fujita Naoya

近畿大学 国際学部 国際学科 グローバル専攻 教授

日・英比較から文法論、音声学、言語習得、言語教授法などを研究。また、日本における留学の実態や行政の関与についても調査。米国の大学で16年教鞭をとり、米国の大学教育システムにも精通。

詳しいプロフィールはこちら

研究の概要

言語の根底に流れる考え方や精神性を明らかにしたい

先生のご専門である日英対照言語学とは、どんな学問ですか?

日本語と英語を比較し、文法や語彙、音声などから多角的に考察する学問です。例えば、日本語はSOV(主語-目的語-動詞)の語順ですが、英語はSVO(主語-動詞-目的語)の語順をとります。日本語と英語は、まるで鏡に映った像のようです。英語と他のヨーロッパ言語は似ているところが多いですが、日本語と英語は全く違うから面白いんですよ。特に今は、日英の動詞が持つ生産性について研究しています。

動詞の生産性というのは?

私が注目しているのは、日本語の複合動詞「ツク」です。かみつく、たどりつく、おいつく、しがみつくなど、「動詞+つく」という表現は数多くあります。他にも「追う+かける→追いかける」「使う+倒す→使い倒す」など、複合動詞はたくさんありますが、「ツク」は特にバリエーションが豊富で、辞書に載っているだけでも67種類はあるんです。いろんな動詞にくっつくことを「生産性が高い」と言います。

すごい!67種類もあるんですね。

「ツク」が特に面白いのは、オノマトペとくっつくところです。ぱさつく、べとつく、いちゃつく、ぎらつく、むかつく……。「オノマトペ+つく」も、辞書に載っているだけでも40種類はあり、新しいオノマトペを作ればそれに「つく」をつけることもできます。

身振り手振りを交えながら、笑顔でお話しされる藤田先生

面白いですね。英語の動詞の生産性についても調べているんですか?

例えば英語の「get+前置詞」の表現は、get to、get on、get alongなど少なくとも30種類はあります。getも生産性が高いですが、getよりも「ツク」のほうが、より深い文化的な背景があるように感じています。

どんな背景があるんでしょうか。

近大独自の本の分類法「近大INDEX」の監修を手がけた編集工学研究所所長の松岡正剛さんは、著書の中で「ツク」と「月」は関連しているんじゃないかと書かれていて。私も「ツク」は「ツイている」「ツキがない」「とり憑かれる」といった言葉や、はては「月」とつながりがあるのではと考えています。「ツク」という複合動詞を調べていく中で、日本語の根底に流れる考え方や精神性と「ツク・ツキ(そして月)」との関係を明らかにしたいという思いで研究しています。

留学先での人との出会いに導かれ、研究・教育の道へ

先生が言語学に興味を持ったきっかけは?

私は高校卒業後すぐ、アメリカに留学しました。1年くらいで帰国するつもりでしたが、語学学校のディレクターが「大学に行ったら?」と勧めてくれたんです。その方は言語学をよく理解していて、例えばボキャブラリーの指導では、接頭辞・接尾辞の語源から意味を推測するなど、言葉の構造をわかりやすく教えてくれて、言語の奥深さを感じました。

それが言語学との出会いだった?

今思えばそうですね。実際に言語学を専攻しようと決めたのは、大学2年生の終わり頃です。あるとき先生に呼び出され、「あなたの発音はひどいね」と言われて。その先生は言語学、特に音声学が専門で、発音のトレーニング方法を教えてくれたんです。教わった方法で練習すると、これまでは発音が悪くて周りから何度も聞き返されていたのに、驚くほど伝わるようになって。コンプレックスを乗り越えられたことで、言語学ってすごいなと実感しました。「できなかったことができるようになった」という経験が、私にとって重要な原点だと思います。

先生は言語学だけでなく、言語教育もご専門ですよね。

そうです。アメリカの大学では16年間、言語学と日本語を教えていました。言語教育に携わるきっかけは、大学2年生の頃。大学で日本語を教えている先生から、アシスタントをしないかと誘われて、やってみたら面白くて。その先生がすごく面倒見の良い方で、「ニューヨークで日本語教育プログラムがあるから行ってきなさい」と、参加費用や渡航費をカバーする奨学金を取ってきてくれたりしたんです。そこで真剣にトレーニングを受けて、以降も日本語教育に携わるようになりました。

留学先での人との出会いに導かれ、道が開けていったんですね。

本当に人に恵まれていると思います。あと、これは学生にもよく言うんですけど、人から何かオファーされたら絶対にノーと言わないことが大切ですね。「やってみない?」と誘われたとき、「えー?」なんて言っていると、チャンスが逃げてしまいますから。

ジェスチャーを交えてお話しされる野田先生の横顔

留学経験を生かして学部開設に携わり、産学協同で留学制度を構築

先生は新学部設置委員長として、2016年の国際学部開設に携わったと伺いました。

はい。私自身が留学を通して、単なる語学学習ではなく、外から自文化を見る機会、人とのつながり、キャリア形成など、多くのものを得たので、近大生にも同じ経験をしてほしいという思いがありました。

近大の国際学部では、すべての学生が1年次後期から1年間留学するそうですね。

はい、全員が必修です。当時の日本では、1年次から留学プログラムを実施する大学は他にはありませんでした。でも、留学はゴールではなくスタート。スタート時点で言葉と文化を学ばないと、グローバルな人間にはならないんじゃないかと。18歳のやわらかな頭と心で経験することが、人格形成やキャリア形成につながると考えました。

留学制度の構築は、産学協同で行ったんですか?

そうです。国際学部の500名全員が留学するとなると、プロフェッショナルの協力が必要です。そこで、留学のノウハウや留学先との連携はベネッセコーポレーション、帰国後のビジネス志向の英語教育はベルリッツコーポレーションと業務連携を行いました。さらに、米国の英語学校「ELS」と連携し、留学期間中も海外の大学キャンパスなどに設置されたELSの語学学習センターのプログラムを受講できるようにしました。現在は英語学校「ILSC」とも連携し、カナダ、オーストラリアへの留学も可能です。

藤田先生が、留学プログラムにおける産学連携について寄稿された冊子の見開き写真

学部創設から今年で10年目。手ごたえはいかがでしょうか。

先ほどの2社に本学の理念を十分理解してもらった上で、学部創設や留学制度の構築を実現できましたし、企業側にも新たなビジネスモデルのノウハウが蓄積されていることかと思います。双方にとってwin-winの関係が築けているのではないでしょうか。文系における産学協同のプロダクトはモノではなく人ですから、成果はすぐには見えづらいですが、海外で就職したり自ら起業したりする卒業生も多く見られ、手ごたえを感じています。

これからの展望

キャリア形成に注力し、世界で活躍できる人材を育てていきたい

国際学部や留学プログラムについて、今後の展望をお聞かせください。

キャリア形成により一層注力していきたいですね。留学中の実地体験やインターンシップを拡充し、学生一人ひとりのキャリアパスにつなげていけるようにしたいです。例えば、現在すでに実施している、フロリダ州にあるウォルト・ディズニー・ワールドでの就業体験を含めた留学プログラムは、学生からも非常に好評です。企業との連携によって、こうした機会を増やしていきたいと考えています。

国際学部でこれからどんな人材を育てていきたいと考えていますか?

コロナ禍を経て、世界的に内向き志向が進んでいると感じます。また、AIの急速な発達により、語学習得のメリットが低下しているという一面もあるでしょう。しかし、そんな時代だからこそ、外向き志向の人材のチャンスではないかと考えています。AIに使われるのではなくAIを使って自分の道を切り開くことができる、コミュニケーションスキルや発想力、行動力を持った人材を育てていきたいですね。

問い合わせ先

研究への質問、共同開発のご相談など、
まずはどんなことでも、お気軽にご相談してください。
スタッフから数日中に折り返しご連絡します。