INTRODUCTION
SXSWの全貌
そもそもSXSWとは売れないミュージシャンたちが集まって互いの音楽を聴きながら、How might me?(どうすれば売れるのか)、意見を交換し合ったことから始まりました。
「参加者たちが互いに対等な立場で話し合うことでより良いアイデアが生まれる」と廣田教授は言います。
対等な立場で、違う視点を持ったもの同士が話し合うことは、新しいアイデアを生み出す
廣田章光
経営学部 教授
SXSWは、今では全米の課題解決の場として、オースティンのダウンタウン全体で行われる大規模なイベントになりました。街中にはタクシーや自転車の代替品として、アプリ決済で借りられるシェアリングエコノミーの電動スクーターが各所に置かれています。これはSXSW2019の公式移動手段として導入されており、海外ではすでにシェア自動車、自転車に次ぐものが開発され普及しているという事実には大変驚きました。
会場では最先端のテクノロジ―が展示されており、今回は教授が気になったいくつかの展示を紹介してくださいました。
自動で荷物を運びながらついてくるロボットや巻取り式テレビなど個性的な製品の紹介があった中、学ぶべき点は多くありました。
観察・共有の重要性
R/AR技術を応用したゲームの紹介があったとき、観察と情報共有の重要性の話がありました。
私たちは一人として同じ思考の人はいません。マーケティングや企画に限らず、チームで活動を行う際はこの思考の違いが大きな障害となることが多いのです。同じ「コンビニ」という言葉を聞いても思い浮かべる店は一人ひとり違うわけですから、この差を放っておくと話がすれ違ってきます。
ここでVR/ARの技術を使える、と教授は言います。
対象をよく知るために観察を行い、それをVR/ARを用いて追体験するように共有すれば、写真や録音よりも高い精度で同じ感覚を共有することができます。
これにより、チーム全員が同じ方向に向かって協力することが容易になるのです。
偶然を必然に
次に、人工流れ星事業の紹介がありました。
人工流れ星とは、事前に設定した時間と場所に人工衛星による流れ星を作る新サービスのことで、この事業から学ぶべきは「偶然を必然にすること」をビジネスにしたことです。
流れ星とは本来どこにいつ落ちるか予想がつかないもので、それゆえに見れば願いが叶うなどの迷信が生まれました。それをねらった通りに落とせる、という体験は十分ビジネスになりうる、というわけです。
こうして考えてみると、案外身近なところにもビジネスチャンスは転がっているものだと感じました。そのチャンスに気づけるアンテナと、実行する行動力を持っているかが差になるのだと教授は言います。
プロの技を民主化する
次に、誰でも感覚で曲のリミックスを行うことができる製品の紹介がありました。
この商品にはタッチパネルがついており、指で触れて感覚的に編曲できるようになっています。普通はプロのDJでも難しいとされているリミックス作業を誰でも簡単に行えるようにした、というのがこの商品の素晴らしい点です。
前に述べた人工流れ星同様、普通はできない「体験」ができるということは、様々な商品であふれる現代には重要となってくるビジネスモデルです。
現代人の大半は必要なもの、欲しいものをすでに手にしてしまっている、これからは製品でどのような「体験」をしてもらいたいのかを考えていくことが、商品として生き残る術になるのです。
ユーザーイノベーション
SXSWの参加者の中には自分の実体験から製品を生み出すに至った方もいました。
今回紹介されていたのは東京大学の大学院生や若手研究者で構成される開発チーム「BionicM」が開発した義足「SuKnee」です。
リーダーの孫小軍さんは子供のころから義足を使用しており、その機能に不満を抱いていたそうです。
そこでこのSuKneeを開発。従来の義足よりも人間の歩行に合わせた自然な動きができるようになっています。
この商品に代表されるように、不満とビジネスはとても近いところにあり、特に使用者は実際に既存の商品を使っているので、その不満を改善するような商品を作るだけで、既存商品との差別化もできます。
使用者の観察も重要ですが、自分が使用者になることで、使用者の観察では気付かなかったことに気付かされます。物事を捉える角度が変われば、得られる気付きも変わります。この違いがユーザーイノベーションの強みであり、このことから私たちは様々な角度から物事を捉える重要性を学びました。
不満はビジネスの種になる。潜在意識の中にある不満を見つけることが成功へのカギ
廣田章光
経営学部 教授
スタートアップ=情報の切り捨て
皆さんもよくご存じのGPSを活用した製品の紹介もありました。
一見ただのキーホルダーなのですが、キーホルダー同士で反応し合い持ち主同士の居場所を知らせる、という機能がついています。
これは登山などでチームのリーダーからはぐれて遭難しないようにと作られており、GPSの機能の中から「相手との距離を測る」という機能のみに特化しています。
このように、消費者の潜在意識の中にある「最低限の問題にフォーカス」して、いらない情報は極力切り捨てることで、目指すものが明確化されるのです。
消費者にも情報処理の限界があることを意識すると、この考え方は、起業したり製品を作るうえでとても重要な視点です。
見えないものの可視化
最後に紹介された製品はUniposというピアボーナスサービスです。
ピアボーナスとは、経済的報酬を同僚に送る権限を従業員に一部委譲し、日頃の仕事の成果や良い行動を評価し、従業員同士で報酬を送り合うことができる仕組みのことで、Uniposはこの仕組みを支援するツールです。
私はまずこのピアボーナスという仕組みがあることを知らなかったのですが、近年ではすでに多くの有名企業で導入されている仕組みとのこと。
Uniposではこのシステムをチャット形式のアプリに落とし込み、リアルタイムで報酬と称賛の言葉を同僚同士で送り合えるようになっています。
このアプリのキーワードの一つとなっているのが「見えないものの可視化」。
感情や評価にうまく基準を設定し、可視化させることで新たなビジネスへとつなげました。
これはマーケティング4.0のスピリチュアルな考え方とも非常にマッチした、よいモデルであると言えます。
以上の製品紹介を通して起業家の視点、何に重きを置いて新事業開拓を行っているのかを学んだ今回のイベントで、教授は、「起業するなら、スキルを磨くより起業のイメージをすること。どう世界を変えたいのか、その思いをイメージすることが大切だ」と強く主張します。
起業に必要なのは「どう世界を変えたいのかイメージする」こと
廣田章光
経営学部 教授
世界的に見ても若い起業家はまだまだ少なく、希少価値が高い今、私たちにとってはチャンスといえます。
高い創造意欲を持ち、世界を変えるような起業イメージを膨らませてみようではありませんか。
EDITING TEAM
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長尾百華
経営学部三回生